病気やケガで働けなくなった時、経済的な不安を軽減してくれる傷病手当金。しかし、申請前に知っておくべきデメリットも存在します。給付額は給与の3分の2となるため、生活水準を維持できるか、差額をどう補うかなど、事前に考えておく必要があります。また、最長1年6ヶ月という支給期間にも注意が必要です。期間終了後の生活設計を立てておくことは非常に重要です。さらに、3日間の待機期間や、医師の診断書取得などの煩雑な手続き、所得税・住民税の課税対象となる点など、見落としがちなポイントも解説します。
この記事では、傷病手当金の5つのデメリットを詳しく説明し、申請前に確認すべきポイントをまとめました。受給を検討している方は、ぜひこの記事を読んで、安心して手続きを進めてください。
傷病手当金の概要
会社員や公務員など、健康保険に加入している方が病気やケガで働けなくなり、給与の支払いを受けられない場合に、生活を保障するために支給されるのが傷病手当金です。病気やケガによる休業中に収入が途絶えてしまう不安を軽減し、治療に専念できるよう支援する制度です。 公的な医療保険制度とは異なり、被保険者期間や保険料納付要件を満たしていれば、業務外の病気やケガでも受給対象となります。 業務災害や通勤災害による休業の場合は、労災保険から療養補償給付が支給されるため、傷病手当金の対象外となります。また、任意継続被保険者や被扶養者も対象となります。
傷病手当金とは何か
傷病手当金は、病気やケガによって働くことができず、会社から給与が支払われない期間に、生活を支えるための給付金です。健康保険に加入している方が対象で、業務外の病気やケガによる休業に対して支給されます。給与の代わりとなるもので、一定の要件を満たせば最長1年6ヶ月間受給できます。治療に専念し、一日も早く職場復帰できるよう経済的な支援を行うことを目的としています。
傷病手当金は、被用者保険(協会けんぽ、健康保険組合など)に加入している方が対象です。国民健康保険や後期高齢者医療制度に加入している自営業者やフリーランスの方は対象外です。また、休職ではなく退職している場合も受給できません。傷病手当金を受給するためには、連続する3日間を含む4日以上仕事に就くことができない状態であること、医師の証明が必要となります。また、給与の支払いが無いことが条件です。
傷病手当金の支給要件
傷病手当金の支給を受けるには、いくつかの要件を満たす必要があります。主な要件は以下の通りです。
要件 | 内容 |
---|---|
被保険者であること | 全国健康保険協会(協会けんぽ)または健康保険組合などの被用者保険に加入している必要があります。 |
仕事に就くことができないこと | 病気やケガのために、連続する3日間を含む4日以上仕事に就くことができない状態である必要があります。この期間は待機期間と呼ばれます。 |
給与の支払いがないこと | 休業期間中に会社から給与の支払いを受けていないことが条件です。一部でも給与が支払われている場合は、その分が傷病手当金から差し引かれます。 |
医師の証明があること | 医師による就業不能の証明が必要です |
業務外であること | 業務中や通勤途中のケガや病気は労災保険の対象となるため、傷病手当金の対象外です。ただし、労災保険の給付額が傷病手当金より少ない場合は、その差額が支給される場合があります。 |
これらの要件をすべて満たす場合に、傷病手当金の支給を受けることができます。
デメリット1:給与の全額は補償されない
傷病手当金を受給する上での大きなデメリットの一つは、給与の全額が補償されないことです。これは、傷病手当金の支給額が、被保険者の標準報酬日額の3分の2に相当する金額で計算されるためです。
標準報酬日額の3分の2しか支給されない
標準報酬日額とは、健康保険の被保険者等級によって決められた1日あたりの報酬額のことです。傷病手当金は、この標準報酬日額の3分の2を乗じた金額が1日あたりの支給額となります。つまり、普段受け取っている給与よりも少ない金額しか支給されないということです。例えば、標準報酬日額が1万円の場合、傷病手当金は1日あたり6,666円(10,000円 × 2/3 = 6,666.66…円を切り捨て)となります。
仮に、標準報酬月額が30万円(標準報酬日額が約1万円)の会社員が1ヶ月(30日間)傷病手当金を受給した場合、支給される金額は約20万円(6,666円 × 30日 = 199,980円)となります。全額支給されるわけではないため、普段の収入との差額を埋めるための対策が必要となるケースが多いでしょう。
傷病手当金と給与の差額をどう埋めるか
傷病手当金だけでは生活が苦しい場合、差額を埋めるための方法を検討する必要があります。主な方法としては以下のようなものがあります。
方法 | 内容 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
貯蓄の活用 | 貯蓄を切り崩して生活費に充てる | すぐに利用できる | 貯蓄が減ってしまう |
家族からの援助 | 家族に生活費の援助をしてもらう | 生活の支えになる | 家族に負担をかけてしまう |
会社の制度利用 | 会社の傷病休暇制度や給与補償制度を利用する | 収入減を軽減できる | 会社によって制度がない場合もある |
民間保険の活用 | 就業不能保険や医療保険などで収入減を補填する | 計画的に備えられる | 保険料の負担がある |
傷病手当金と給与の差額を埋める方法は、個々の状況によって異なります。事前にしっかりと検討し、自分に合った方法を選ぶことが重要です。また、全国健康保険協会のウェブサイトなどで、傷病手当金について詳しく調べておくこともおすすめです。
デメリット2:支給期間に限りがある
傷病手当金は、残念ながら無期限に支給されるものではありません。支給期間には上限があり、この期間を過ぎると支給が停止されます。将来設計を考える上で、この点についてしっかりと理解しておくことが重要です。
最長1年6ヶ月までしか支給されない
傷病手当金の支給期間は、同一の傷病によって連続して休業した場合、最長1年6ヶ月(546日)です。この期間は、待機期間の3日間を含みません。1年6ヶ月を超えてもなお就業できない場合は、傷病手当金の支給は終了となり、生活設計の見直しが必要になります。
例えば、同じ病気で1年6ヶ月休業した後、一度職場復帰したものの、同じ病気で再び休業することになった場合、以前の休業期間は通算されません。ただし、最初の傷病と今回の傷病の因果関係が認められる場合は、通算される可能性があります。
支給期間終了後の生活設計の重要性
1年6ヶ月という支給期間は、人によっては長く感じるかもしれませんが、重篤な病気やケガの場合にはあっという間に過ぎてしまう可能性があります。支給期間が終了した後の生活設計を事前に考えておくことは非常に重要です。
傷病手当金の支給が終了した後、どのような選択肢があるのかを以下にまとめました。
選択肢 | 内容 | 注意点 |
---|---|---|
職場復帰 | 元の職場に復帰する。 | 就業可能な健康状態であることが前提。 |
転職 | 新しい仕事を探す。 | 健康状態やスキルに見合った仕事を見つける必要がある。 |
障害年金 | 一定の障害状態にある場合に支給される年金制度。 | 障害等級の認定を受ける必要がある。 |
生活保護 | 生活に困窮している場合に支給される制度。 | 一定の要件を満たす必要がある。 |
貯蓄の活用 | これまで貯蓄していたお金を使う。 | 貯蓄額によっては長期間の生活を支えられない可能性がある。 |
家族の支援 | 家族から経済的な支援を受ける。 | 家族の経済状況によっては難しい場合もある。 |
これらの選択肢は、個々の状況によって異なります。傷病手当金の支給期間中に、ご自身の状況に合った将来設計を立て、必要な準備を進めておくことが大切です。専門家への相談も有効です。例えば、ファイナンシャルプランナーや社会保険労務士などに相談することで、より具体的なアドバイスを受けることができます。
デメリット3:待機期間が存在する
傷病手当金には、待機期間と呼ばれる支給開始までの期間があります。これは、病気やケガで休業した最初の3日間が支給対象外となることを意味します。この3日間は給与の支払いがない場合、無収入の状態となるため、生活に大きな影響を与える可能性があります。
待機期間を乗り切るための備え
待機期間の存在は、傷病手当金を受給する上で大きなデメリットとなる可能性があります。無収入の3日間を乗り切るためには、事前の備えが重要です。具体的には、以下のような対策が考えられます。
貯蓄
生活費の3日分程度の貯蓄があれば、待機期間中の生活費を賄うことができます。普段から計画的に貯蓄しておきましょう。
有給休暇の活用
有給休暇が残っている場合は、待機期間に有給休暇を取得することで、給与の支払いを確保できます。ただし、有給休暇の取得には会社の規定に従う必要があります。
傷病手当金以外の公的支援制度の活用
条件によっては、傷病手当金以外にも利用できる公的支援制度があります。例えば、住民税非課税世帯であれば、生活福祉資金貸付制度の利用を検討できます。また、各市区町村が独自に設けている支援制度もあるため、事前に調べておきましょう。
健康保険組合の付加給付
加入している健康保険組合によっては、傷病手当金の待機期間中にも給付金が支給される場合があります。ご自身の加入している健康保険組合の規定を確認しましょう。
備え | 内容 |
---|---|
貯蓄 | 生活費の3日分程度の貯蓄をしておく |
有給休暇 | 待機期間に有給休暇を取得する |
公的支援制度 | 生活福祉資金貸付制度など、利用可能な制度を調べる |
健康保険組合の付加給付 | 加入している健康保険組合の規定を確認する |
待機期間は給与の支払いがなく、経済的に不安定な時期です。事前にしっかりと備えを行い、安心して療養に専念できる環境を整えましょう。
デメリット4:手続きが煩雑
傷病手当金を受給するためには、いくつかの手続きが必要となります。これらの手続きは煩雑で、時間と労力を要することがあります。スムーズに手続きを進めるためにも、どのような手続きが必要なのか、事前にしっかりと確認しておきましょう。
医師の診断書や申請書類の準備が必要
傷病手当金を受給するためには、医師の証明が必要です。申請時には、「傷病手当金支給申請書」の「医師の意見書欄」に、病名、発症日、療養期間などを記載してもらう必要があります。これらの情報が不足していると、申請が受理されない可能性があります。
また、一部の会社では、就業規則に基づき、休職に関する診断書などの追加書類を求める場合があります。必要な書類については、事前に勤務先に確認しておきましょう。
診断書の取得には費用がかかり、医療機関によって異なりますが、一般的には5,000円~10,000円程度です。発行には数日かかることがあるため、余裕を持って医療機関に依頼することをおすすめします。
なお、傷病手当金支給申請書は、全国健康保険協会(協会けんぽ)や健康保険組合のウェブサイトからダウンロードできます。
会社への連絡や手続きの手間
病気やケガで会社を休む場合は、速やかに会社に連絡する必要があります。就業規則によっては、連絡の期限が定められている場合もあります。また、傷病手当金の申請手続きも会社を通じて行う必要があります。申請書類を会社に提出した後、会社は必要事項を記入し、全国健康保険協会に提出します。会社によっては、傷病手当金に関する独自の規定を設けている場合があります。事前に会社の担当者に確認し、必要な手続きを済ませておきましょう。
傷病手当金の申請には、期限があります。期限を過ぎると申請できなくなるので、注意が必要です。また、申請書類に不備があると、再提出を求められる場合があります。再提出によって申請期限が過ぎてしまう可能性もあるため、書類は慎重に作成し、不明点があれば早めに会社や全国健康保険協会に問い合わせるようにしましょう。
まとめ
傷病手当金は、病気やケガで働けない期間の収入を保障する制度です。しかし、給与の全額が補償されるわけではない、支給期間に限りがある、待機期間が存在する、手続きが煩雑など、いくつかのデメリットも存在します。
傷病手当金を申請する前に、これらのデメリットを理解し、収入減や手続きの手間などに備えておくことが重要です。給与との差額をどのように補うか、支給期間終了後の生活設計をどうするか、待機期間中の生活費をどうするかなどを事前に考えておくことで、安心して療養に専念できるでしょう。また、傷病手当金は非課税ではないため、所得税や住民税の納付、場合によっては確定申告も必要になります。これらの点も踏まえ、自身の状況を把握し、計画的に利用することが大切です。
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