「傷病手当金」と「休職」、似たように感じるけれど、実は全く異なる制度です。もしもの時に慌てないために、両者の違いを正しく理解しておくことは重要です。この記事では、傷病手当金と休職制度の概要、支給条件や手続き、それぞれのメリット・デメリットを分かりやすく解説します。
傷病手当金とは?
病気やケガで会社を休まざるを得ない場合、経済的な不安を抱える方も多いでしょう。傷病手当金は、そのような状況で会社員を支えるための公的な制度です。健康保険に加入している会社員が病気やケガのために会社を休み、給与の支払いがない場合に、生活を保障するために支給されます。
傷病手当金の概要
傷病手当金は、被保険者が病気やケガにより働くことができず、事業主から給与の支払いを受けられない期間に、生活の安定を図ることを目的とした制度です。健康保険法に基づいて支給され、最長1年6ヶ月にわたって受給できます。業務外の病気やケガが対象となり、業務中のケガや病気で休業する場合は労災保険が適用されます。
傷病手当金の支給条件
傷病手当金を受給するには、以下の条件を満たす必要があります。
- 健康保険に加入していること
- 病気やケガのために会社を休み、給与の支払いがないこと
- 連続する3日間を含み、4日目以降も仕事に就くことができないこと(待期期間)
- 医師の証明があること
パートタイマーやアルバイトなど、勤務日数や勤務時間が少ない場合でも、健康保険の被保険者であれば傷病手当金の受給対象となります。
傷病手当金の支給額
傷病手当金の支給額は、1日あたり標準報酬日額の3分の2に相当する金額です。標準報酬日額とは、健康保険料を計算する際に用いられる基準となる金額で、被保険者の給与に応じて決定されます。具体的な計算方法は以下のとおりです。
標準報酬日額 × 2/3 = 1日あたりの傷病手当金支給額
例えば、標準報酬日額が9,000円の場合は、1日あたり6,000円の傷病手当金が支給されます。
標準報酬月額 | 標準報酬日額 | 1日あたりの傷病手当金支給額 |
---|---|---|
30万円 | 10,000円 | 約6,667円 |
40万円 | 約13,333円 | 約8,889円 |
50万円 | 約16,667円 | 約11,111円 |
傷病手当金の支給額は、給与の全額が補償されるわけではありませんので、注意が必要です。
傷病手当金の手続き
傷病手当金を受給するには、所定の手続きが必要です。まず、医師の診察を受け、「傷病手当金支給申請書」に必要事項を記入し、医師の証明をもらいます。次に、この申請書を会社に提出し、会社を通じて健康保険組合に申請します。申請に必要な書類や手続きの流れは、加入している健康保険組合によって異なる場合がありますので、事前に確認しておきましょう。
会社に傷病手当金の申請をスムーズに行うために、あらかじめ就業規則を確認し、必要な書類や手続きの流れを把握しておくことが重要です。 また、会社の担当者と密に連絡を取り合い、不明点があればすぐに確認するようにしましょう。
休職とは?
休職とは、会社員が病気やケガ、あるいはその他の事情により一定期間、会社を休むことを指します。労働契約は継続したまま、職務の執行を免除される状態です。復職を前提としている点が、退職とは大きく異なります。
休職制度の概要
休職制度は、労働基準法で定められた制度ではありません。各企業が就業規則で定める任意の制度です。そのため、会社によっては休職制度自体がない場合もあります。休職制度がある場合でも、その内容(休職期間、休職中の給与や待遇など)は会社によって異なります。就業規則をよく確認することが重要です。
休職の種類
休職には、様々な種類があります。主なものを以下に示します。
種類 | 内容 |
---|---|
傷病休職 | 病気やケガにより、一定期間就業が困難な場合に取得できる休職です。 |
産前産後休暇・育児休業に続く休職 | 産前産後休暇や育児休業を取得した後に、引き続き一定期間休職する場合に取得できる休職です。 |
介護休職 | 家族の介護が必要な場合に取得できる休職です。 |
留学休職 | 自己啓発などを目的とした留学のために取得できる休職です。 |
これらの他にも、会社独自の休職制度を設けている場合があります。
休職の条件
休職の条件は、会社によって異なります。一般的には、就業規則で定められた一定の要件を満たす必要があります。例えば、勤続年数や病気・ケガの状態、介護の必要性などが条件となる場合があります。また、医師の診断書が必要となるケースもあります。
休職中の給与や待遇
休職中の給与や待遇も、会社によって異なります。無給の場合もあれば、一部有給の場合もあります。また、社会保険料の負担や賞与の支給についても、就業規則で定められています。休職期間中は、健康保険の被保険者資格は継続されますが、厚生年金保険の被保険者資格は、休職期間や給与の有無によって変わる場合があります。傷病休職の場合は、傷病手当金の受給対象となる可能性があります。詳細については、会社の就業規則や健康保険組合に確認しましょう。
傷病手当金と休職の違いを分かりやすく解説
傷病手当金と休職は、どちらも病気やケガで働けなくなった場合に利用できる制度ですが、その内容には大きな違いがあります。給与の支払い、期間、手続き、適用条件の4つのポイントで比較してみましょう。
給与の支払い
傷病手当金 | 休職 | |
---|---|---|
給与の有無 | 給与の支払いなし(手当金を受給) | 会社によって異なる(給与の全部または一部が支払われる場合あり) |
金額 | 標準報酬日額の3分の2相当 | 就業規則による |
所得税 | 非課税 | 課税対象 |
社会保険料 | 原則として免除されない | 通常は発生(給与があれば天引き) |
傷病手当金は、給与の代わりとして支給される手当金であり、所得税は非課税です。一方、休職中は、会社によって給与の全部または一部が支払われる場合があります。給与が支払われる場合、所得税や社会保険料が発生します。ただし、給与が支払われない休職の場合もあります。
期間
傷病手当金 | 休職 | |
---|---|---|
支給期間 | 最長1年6ヶ月 | 就業規則による(一般的には3ヶ月~1年程度) |
延長 | 原則として延長不可 | 就業規則や会社の状況、従業員の状況に応じて延長される場合あり |
傷病手当金の支給期間は、支給開始日から最長1年6ヶ月です。一方、休職期間は、就業規則によって定められており、一般的には3ヶ月~1年程度です。傷病手当金の支給期間が終了しても、病気が治癒していない場合は、休職期間を延長できる可能性があります。ただし、会社の規定や状況によっては、延長が認められない場合もあります。
手続き
傷病手当金 | 休職 | |
---|---|---|
必要書類 | 医師の診断書、傷病手当金支給申請書 | 医師の診断書、休職願 |
申請先 | 健康保険組合または協会けんぽ | 会社 |
傷病手当金を受給するには、医師の診断書と傷病手当金支給申請書を健康保険組合または協会けんぽに提出する必要があります。一方、休職するには、医師の診断書と休職願を会社に提出する必要があります。手続き先は異なるため注意が必要です。
適用条件
傷病手当金 | 休職 | |
---|---|---|
条件 | 病気やケガのために会社を休み、給与の支払いが無いこと | 就業規則に定められた条件を満たすこと(病気やケガの種類、勤続年数など) |
傷病手当金は、病気やケガのために会社を休み、給与の支払いが無い場合に受給できます。一方、休職は、就業規則に定められた条件を満たす必要があります。条件は会社によって異なり、病気やケガの種類、勤続年数などが考慮されます。会社によっては休職制度自体がない場合もあるため、就業規則を確認することが重要です。
傷病手当金と休職、どちらを選択すべき?
病気やケガで働けなくなった場合、傷病手当金を受給するか、休職するか、どちらを選択すべきか迷う方も多いでしょう。どちらにもメリット・デメリットがあり、状況によって最適な選択は異なります。ここでは、病気やケガの種類や期間、会社の規定などを考慮しながら、どのように選択すれば良いか解説します。
病気やケガの種類と期間で考える
病気やケガの種類や期間によって、傷病手当金と休職のどちらが適しているかが変わってきます。
病気やケガの種類・期間 | 傷病手当金 | 休職 |
---|---|---|
短期の病気やケガ(数日~数週間) | 適用されない場合が多い(待機期間があるため) | 有給休暇を取得し、それでも足りない場合は短期休暇制度の利用を検討 |
数週間~数ヶ月の病気やケガ | 適用される可能性が高い | 会社の規定によっては、傷病手当金受給後に休職に切り替わる場合も |
長期の病気やケガ(数ヶ月以上) | 最長1年6ヶ月まで受給可能だが、その後の収入源の確保が必要 | 長期的な療養が可能。傷病手当金と併用できる場合もある |
精神疾患など、回復に時間がかかる病気 | 受給期間が限られているため、長期的な場合は休職制度の利用を検討 | 復職支援制度を利用できる場合も。長期的な療養が可能 |
会社の規定を確認する
傷病手当金と休職に関する規定は、会社によって異なります。就業規則を確認し、休職制度の有無、休職期間、休職中の給与や待遇、傷病手当金との併用可否などを確認しましょう。人事部や総務部などに問い合わせると、詳しい説明を受けられます。
休職の種類を確認
会社によっては、病気休職以外にも、介護休職や育児休職など、様々な休職制度が設けられている場合があります。自身の状況に合った制度を選択するために、どのような種類の休職制度があるのかを確認しましょう。
傷病手当金と休職の併用
会社によっては、傷病手当金の受給期間中に休職制度を利用できる場合があります。傷病手当金だけでは生活が厳しい場合、休職と併用することで収入を補填できる可能性があります。会社の規定を確認し、併用が可能かどうかを確認しましょう。
医師との相談も大切
自身の健康状態や治療方針について、医師とよく相談することも重要です。医師の意見を参考に、傷病手当金と休職のどちらが適切か、判断しましょう。診断書の内容によっては、傷病手当金の受給や休職の可否が影響を受ける場合もあります。
必要な診断書の確認
傷病手当金の手続きや休職の申請には、医師の診断書が必要です。会社が指定する診断書の様式がある場合もありますので、事前に確認し、医師に適切な診断書を作成してもらいましょう。また、傷病手当金と休職で必要な診断書の内容が異なる場合もあるので注意が必要です。
傷病手当金と休職に関するよくある質問
傷病手当金と休職について、よくある質問をまとめました。手続きや条件など、疑問を解消してスムーズな対応を目指しましょう。
Q. 傷病手当金を受給中に復職した場合、手続きはどうすればいいですか?
傷病手当金を受給中に復職した場合は、速やかに健康保険組合に連絡し、「傷病手当金支給終了届」を提出する必要があります。この届出を怠ると、受給資格がない期間に傷病手当金を受け取っていたことになり、後で返還を求められる可能性があります。また、会社にも復職日を伝え、必要な手続きを行いましょう。
Q. 休職中に傷病手当金を受給することはできますか?
休職中の傷病手当金の受給は、会社の休職規定と傷病の原因によって異なります。会社の休職規定で給与の支払いが一切ない場合は、傷病手当金の受給対象となります。しかし、一部でも給与の支払いが継続されている場合は、その金額に応じて傷病手当金の額が減額または支給されない可能性があります。また、業務上のケガや病気で休職している場合は、労災保険が適用され、傷病手当金は受給できません。
Q. 傷病手当金の受給期間中に、転職活動はできますか?
傷病手当金の受給期間中に転職活動を行うことは、原則として可能です。傷病手当金は、病気やケガで働けない期間の生活を保障するための制度であり、転職活動を制限するものではありません。ただし、転職活動が病状の悪化につながる場合は、医師と相談の上、慎重に行動する必要があります。
Q. 傷病手当金と休職のどちらを選択すべきか迷っています。どのように決めたら良いでしょうか?
傷病手当金と休職のどちらを選択するかは、病状、会社の規定、経済状況などを総合的に判断する必要があります。以下の表を参考に、ご自身の状況に合った選択を検討してみてください。
項目 | 傷病手当金 | 休職 |
---|---|---|
給与の有無 | あり(標準報酬日額の約2/3) | 会社規定による(一部支給、無給など) |
雇用保険・社会保険 | 継続加入 | 継続加入(会社規定による場合あり) |
適用条件 | 病気やケガで働くことができない | 会社規定による |
期間 | 最長1年6ヶ月 | 会社規定による |
メリット | 収入の保障がある | 雇用が維持される、復職しやすい |
デメリット | 収入が減る可能性がある | 無給の場合、生活が困難になる可能性がある |
最終的には、医師や会社の担当者、社会保険労務士などに相談し、ご自身の状況に最適な選択をするようにしましょう。
Q. 傷病手当金の申請に必要な書類は何ですか?
傷病手当金の申請に必要な書類は主に以下のとおりです。※追加書類の可能性に注意
- 傷病手当金支給申請書
- 医師の診断書(療養のための労務不能である期間などが明記されているもの)
- 事業主の証明(給与の支払い状況などが記載されているもの)
これらの書類は、健康保険組合に提出します。必要に応じて追加書類を求められる場合もありますので、事前に確認しておきましょう。
会社員が知っておくべき傷病手当金と休職の注意点
傷病手当金と休職は、どちらも病気やケガで働けなくなった際に利用できる制度ですが、それぞれ異なる特徴があります。正しく理解し、適切に利用するためには、以下の注意点を確認しておきましょう。
就業規則の確認
会社によって、休職制度の有無や規定、傷病手当金に関する手続きなどが異なります。就業規則をよく確認し、会社の規定に沿って手続きを進めることが重要です。休職期間の上限や、休職中の給与の有無、傷病手当金の手続き方法などを事前に確認しておきましょう。また、人事部や所属部署の上司に相談することも大切です。
健康保険組合への連絡
傷病手当金を受給するためには、健康保険組合への申請が必要です。必要書類や手続きの流れを確認し、速やかに手続きを行いましょう。申請が遅れると、受給開始が遅れる可能性があります。また、会社の健康保険担当者への連絡も忘れずに行いましょう。会社によっては、健康保険組合への連絡を代行してくれる場合もあります。
医師の診断書の取得
傷病手当金と休職のどちらを利用する場合でも、医師の診断書が必要です。診断書には、病名、症状、就業可能な時期などが記載されます。休職の場合は、会社の規定によっては、診断書の内容に加えて、具体的な仕事内容や業務上の支障についても記載が必要な場合があります。また、傷病手当金の申請には、専用の診断書が必要となるため、事前に健康保険組合に確認しましょう。
傷病手当金と休職の併用
状況によっては、傷病手当金と休職を併用できる場合があります。例えば、会社の休職規定で傷病手当金の受給期間中は無給とされている場合、傷病手当金を受給しながら休職することで、収入の減少を補うことができます。ただし、傷病手当金と休職の併用については会社の規定を確認する必要があるため、事前に人事部などに相談しましょう。
復職に関する注意点
傷病手当金を受給中または休職中に復職する場合、会社への連絡と医師の診断書が必要です。復職時期や就業可能な範囲などを医師と相談し、会社に報告しましょう。また、復職後も体調に無理がないように、段階的に業務量を増やすなど、周囲の理解と協力を得ながらスムーズに職場復帰できるように努めましょう。
相談窓口の活用
傷病手当金や休職に関する手続きや制度について、分からないことがあれば、各相談窓口を活用しましょう。主な相談窓口は以下の通りです。
相談窓口 | 内容 |
---|---|
会社の人事部/健康保険担当者 | 会社の休職規定、傷病手当金の手続きなど |
健康保険組合 | 傷病手当金の申請、支給額など |
労働基準監督署 | 労働に関する法律や制度全般 |
都道府県労働局 | 労働に関する相談、紛争解決など |
これらの窓口に相談することで、疑問を解消し、安心して手続きを進めることができます。
まとめ
傷病手当金と休職は、どちらも病気やケガで働けない期間の収入を保障するための制度ですが、給付主体や支給条件、期間などが異なります。傷病手当金は健康保険から支給され、休職は会社独自の制度に基づきます。どちらを選択すべきかは、病気やケガの種類、期間、会社の規定などを考慮し、医師や人事担当者と相談しながら決定することが重要です。自身の状況に合った制度を理解し、適切な手続きを行うことで、安心して療養に専念できます。
退職給付金の受給手続きを行うためには、正確な手続きと専門的な知識が必要です。しかし、手続きの複雑さや専門知識の不足でお困りの方も多いのではないでしょうか?「退職のミカタ」なら、業界最安レベルの価格で安心してご利用いただけます。「退職のミカタ」のコンテンツを利用することで、退職前から退職後まで、いつ・どこで・何をすればいいのかを、確認しながら進めていくことができます。退職給付金についてお困りの方は、ぜひ「退職のミカタ」のご利用をご検討ください!
コメント