傷病手当金を受給中に住民税の通知が来て戸惑っていませんか?この記事では、傷病手当金と住民税の関係について、基本的なルールから注意点まで分かりやすく解説します。結論として、傷病手当金自体は非課税ですが、住民税は前年の所得に対して課税されるため支払いが必要になる場合があります。住民税の仕組みや、支払いが難しい場合の減免・猶予制度、よくある質問まで網羅。この記事を読めば、傷病手当金と住民税に関する疑問が解消されます。
傷病手当金は住民税の課税対象になるのか 基本的なルール
病気やケガで会社を休み、給与の支払いがない場合に生活を支えてくれる傷病手当金。この傷病手当金を受け取った場合、「住民税はかかるのだろうか?」と疑問に思う方も多いでしょう。ここでは、傷病手当金と住民税の基本的な関係について解説します。
結論 傷病手当金は住民税の課税対象外(非課税)
まず最も重要な結論からお伝えします。健康保険から支給される傷病手当金は、住民税の課税対象にはなりません。これは、傷病手当金が給与や報酬といった「所得」とはみなされないためです。
傷病手当金は、病気やケガで働けなくなった被保険者やその家族の生活を保障するために設けられた、社会保険制度に基づく給付金です。そのため、税法上、課税の対象とはならない「非課税所得」として扱われます。
したがって、傷病手当金をいくら受け取ったとしても、その金額が原因で翌年の住民税額が増えることはありません。安心して制度を利用してください。
傷病手当金が非課税である法的根拠
傷病手当金が住民税の課税対象外であることは、法律によって明確に定められています。
根拠となるのは健康保険法 第62条です。この条文には、「保険給付として支給を受けた金品については、租税その他の公課を課することができない」と規定されています。
傷病手当金は、この健康保険法に定められた「保険給付」に該当します。そのため、法律に基づいて住民税や所得税などの税金(租税その他の公課)が課されることはないのです。
このように、傷病手当金が非課税であることにはしっかりとした法的根拠があります。
所得税も非課税 傷病手当金と税金の関係
住民税だけでなく、傷病手当金は所得税についても非課税です。これは、所得税法においても、健康保険法などの社会保険制度に基づいて支給される給付金は非課税所得として扱われることが定められているためです(所得税法 第9条第1項第3号など)。
つまり、傷病手当金は、個人の所得に基づいて計算される主要な税金である「所得税」と「住民税」の両方において、課税の対象外となります。確定申告などで所得を計算する際にも、傷病手当金の額を含める必要はありません。
しかし、同じ「休業」に対する手当でも、労働基準法に基づいて会社から支払われる「休業手当」は、給与所得として扱われ、所得税・住民税ともに課税対象となる点に注意が必要です。傷病手当金と休業手当は全く異なる性質を持つことを理解しておきましょう。
傷病手当金受給中でも住民税の支払いが発生する理由
傷病手当金は非課税所得であるにも関わらず、「傷病手当金をもらって休んでいるのに、なぜ住民税の支払いが必要なの?」と疑問に思う方も少なくありません。その主な理由は、住民税の計算方法にあります。ここでは、傷病手当金受給中でも住民税の支払いが発生する仕組みについて詳しく解説します。
住民税は前年の所得に基づいて計算される
住民税の支払いが傷病手当金受給中にも発生する最大の理由は、住民税が「前年の所得」に基づいて計算されるという仕組みにあります。これを「前年所得課税主義」といいます。
具体的には、その年の1月1日から12月31日までの1年間の所得(給与所得、事業所得など)を基に住民税額が計算され、その計算結果に基づいて翌年の6月から翌々年の5月にかけて納税するという流れになります。したがって、傷病手当金を受給し始めた年に所得がなかったとしても、前年に一定以上の課税所得があれば、その所得に対する住民税を翌年に納付する必要があるのです。
例えば、2023年中に働いて所得があり、2024年から傷病手当金を受給して休職した場合、2023年の所得に基づいて計算された住民税を2024年6月から支払うことになります。傷病手当金自体は非課税で2024年の所得計算には含まれませんが、前年(2023年)の所得に対する納税義務は残るため、支払いが発生するわけです。
住民税の納税通知書はいつ届く?
前年の所得に基づいて計算された住民税額を知らせる「納税通知書」は、毎年5月から6月頃に届くのが一般的です。ただし、住民税の徴収方法によって通知の時期や方法が異なります。
徴収方法 | 通知時期(目安) | 通知方法 | 対象者 |
---|---|---|---|
特別徴収 | 5月中 | 勤務先の会社を通じて「住民税決定通知書」が配布されます。 | 給与所得者(会社員、公務員など) |
普通徴収 | 6月上旬~中旬 | お住まいの市区町村から自宅へ「納税通知書」と納付書(通常4期分または一括用)が郵送されます。 | 自営業者、退職者、特別徴収ができない給与所得者など |
傷病手当金を受給して休職中の場合でも、会社に在籍していれば原則として特別徴収の対象となり、会社経由で通知書を受け取ることになります。退職した場合は、普通徴収に切り替わり、市区町村から直接通知書が届きます。
住民税の支払い方法 在職中と退職後の違い
住民税の支払い方法は、傷病手当金受給中に会社に在籍しているか(休職中)、すでに退職しているかによって異なります。それぞれのケースでの支払い方法を確認しておきましょう。
在職中の住民税支払い 特別徴収が基本
傷病手当金を受給して休職している場合でも、会社に籍がある限り、原則として住民税は「特別徴収」、つまり給与からの天引きで支払われます。前述の通り、住民税は前年の所得に対して課税されるため、休職中で給与が支払われていなくても納税義務は発生します。
ただし、休職により給与の支払いがない、または住民税額より少ない場合は、給与天引きができません。この場合の対応は会社によって異なりますが、主に以下のいずれかの方法が取られます。
- 会社が一時的に住民税を立て替えて支払い、後日従業員に請求する。
- 従業員自身で納付する「普通徴収」に切り替える手続きを会社が行う。(この場合、市区町村から納付書が届きます)
休職中の住民税の支払い方法については、必ず勤務先の給与担当者や人事部に確認するようにしましょう。
退職後の住民税支払い 普通徴収への切り替え
傷病手当金の受給中に退職した場合、または受給終了後に退職した場合は、給与からの特別徴収ができなくなるため、残りの住民税は「普通徴収」に切り替わり、自分で納付する必要があります。
退職時期によって、その年度の残りの住民税の支払い方法が異なります。
退職時期 | 未納分の住民税の支払い方法 |
---|---|
1月1日~5月31日 | 原則として、退職月から5月までの住民税が、最後の給与や退職金から一括で徴収されます。(納税者の希望や会社の規定により普通徴収への切り替えが可能な場合もあります) |
6月1日~12月31日 | 退職した月の分までは特別徴収され、残りの期間(翌年5月まで)の住民税は普通徴収に切り替わります。後日、市区町村から納税通知書と納付書が自宅に郵送されるので、それを使って自分で納付します。(本人の希望により、最後の給与や退職金から一括徴収してもらうことも可能な場合があります) |
退職後の手続きについては、退職前に会社の担当者に確認しておくとスムーズです。普通徴収に切り替わった場合は、市区町村から送られてくる納付書に従い、期限までに金融機関やコンビニエンスストア、口座振替などで納付してください。
住民税の支払いが難しい場合の救済措置
傷病手当金は非課税所得ですが、住民税は前年の所得に対して課税されるため、傷病手当金を受給して現在の収入が減少していても、前年の所得に基づいた住民税の納税通知書が届きます。そのため、「収入が減って住民税の支払いが厳しい」という状況に陥ることがあります。
もし住民税の支払いが困難な場合は、そのまま放置せず、利用できる可能性のある公的な救済措置について確認することが重要です。主に「減免制度」と「徴収猶予制度」があります。これらの制度を利用するには申請が必要であり、自動的に適用されるものではありません。
以下で、それぞれの制度の概要と申請手続きについて解説します。
住民税の減免制度を利用できる可能性
住民税の減免制度とは、納税者の特別な事情を考慮して、住民税額の一部または全部が免除される制度です。傷病手当金を受給していること自体が直接的な減免理由にはなりませんが、病気やケガによる長期療養で所得が著しく減少した場合や、失業した場合など、特定の要件に該当すれば減免を受けられる可能性があります。
減免の対象となる具体的な条件や減免割合は、お住まいの市区町村によって条例で定められており、それぞれ異なります。一般的な減免対象となる可能性のあるケースとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 生活保護法の規定による扶助を受けることになった場合
- 災害により住宅や家財に著しい損害を受けた場合
- 失業、廃業、病気などにより所得が前年に比べて著しく減少した場合
- その他、市区町村が特に認める事情がある場合
傷病手当金受給中で、前年に比べて所得が大幅に減少している場合は、この制度の対象となるか、必ずお住まいの市区町村役場の担当窓口に確認しましょう。申請には期限(通常は納期限まで)が設けられていることが多いので、早めの相談が肝心です。
住民税の徴収猶予制度とは
徴収猶予制度とは、住民税を一時に納付することが困難な場合に、申請に基づいて納税を一定期間(原則1年以内)待ってもらう制度です。減免制度とは異なり、税額そのものが免除されるわけではありませんが、資金繰りが厳しい場合に時間的な余裕を得ることができます。
徴収猶予が認められると、その猶予期間中の延滞金の全部または一部が免除される場合があります。これも、納税者の負担を軽減するための措置です。
徴収猶予が認められる主なケースには、以下のようなものがあります。
- 災害や盗難にあった場合
- 納税者本人または生計を一にする親族が病気にかかったり負傷した場合
- 事業を廃止または休止した場合
- 事業で著しい損失を受けた場合
傷病手当金を受給する原因となった病気やケガが、この「納税者本人が病気にかかったり負傷した場合」に該当する可能性があります。こちらも、具体的な要件や手続きについては、お住まいの市区町村役場への確認が必要です。
減免制度と徴収猶予制度の主な違いをまとめると、以下のようになります。
制度 | 概要 | 税額への影響 | 延滞金 |
---|---|---|---|
減免制度 | 特別な事情により、住民税の全部または一部が免除される | 税額自体が減る(またはゼロになる) | – (そもそも免除されるため) |
徴収猶予制度 | 特別な事情により、住民税の納付を一定期間待ってもらう | 税額は変わらない | 猶予期間中は全部または一部が免除される場合がある |
どちらの制度が利用できるか、またはどちらを申請すべきかは、個々の状況や市区町村の判断によります。
減免や猶予の申請手続きと相談窓口
住民税の減免や徴収猶予を希望する場合は、必ずご自身で申請手続きを行う必要があります。自動的に適用されることはありません。
【申請手続きの一般的な流れ】
- 相談・申請書の入手:まず、お住まいの市区町村役場の住民税担当課(または税務課、納税課など)に相談します。電話または窓口で、現在の状況を説明し、減免や猶予の対象となる可能性があるか、必要な手続きについて確認しましょう。申請書もこの窓口で入手できます(自治体によってはウェブサイトからダウンロード可能な場合もあります)。
- 必要書類の準備:申請書に加えて、減免や猶予が必要な理由を証明する書類の提出を求められます。一般的には以下のような書類が必要となりますが、詳細は必ず市区町村にご確認ください。
- 申請書(市区町村指定のもの)
- 収入状況がわかる書類(給与明細、預金通帳のコピー、離職票、傷病手当金支給決定通知書のコピーなど)
- 病気やケガを証明する書類(医師の診断書など)※徴収猶予や、病気を理由とする減免申請の場合
- その他、市区町村が必要と認める書類
- 申請書の提出:必要書類を揃えて、指定された期限までに市区町村役場の担当窓口に提出します。多くの場合、申請期限は各納期の納期限までと定められています。期限を過ぎると受け付けてもらえない可能性が高いので、支払いが難しいと感じたらすぐに相談・申請することが重要です。
- 審査・決定:提出された書類に基づいて、市区町村が審査を行い、減免や猶予の可否、内容(減免額や猶予期間など)を決定し、通知します。
【相談窓口】
住民税の減免や徴収猶予に関する相談・申請は、お住まいの市区町村役場の住民税担当課(税務課、納税課など名称は自治体により異なります)が窓口となります。
納税通知書に記載されている問い合わせ先に連絡するか、市区町村のウェブサイトで担当部署を確認してください。
支払いが困難な状況を正直に伝え、利用できる制度がないか、どのような手続きが必要かを具体的に相談しましょう。早めに相談することで、より適切な対応策を見つけやすくなります。
傷病手当金と住民税に関するよくある質問と注意点
傷病手当金を受給している期間は、収入状況や働き方が通常と異なるため、住民税以外にも税金や社会保険料に関して様々な疑問が生じやすいものです。ここでは、特に多くの方が気になる点や注意すべきポイントをQ&A形式で解説します。
傷病手当金受給中の確定申告は必要?
傷病手当金は所得税法上、非課税所得として扱われます。そのため、収入が傷病手当金のみであり、他に確定申告が必要な理由がない場合は、原則として確定申告を行う必要はありません。
ただし、以下のようなケースでは確定申告が必要、または確定申告をした方が有利になる場合があります。
- 他の所得がある場合:副業による所得、不動産所得、年金収入など、傷病手当金以外に課税対象となる所得がある場合は、それらの所得について確定申告が必要です。
- 医療費控除を受ける場合:年間の医療費が一定額を超えた場合、確定申告を行うことで医療費控除を受けられ、所得税や住民税が還付される可能性があります。傷病手当金受給中は医療費がかさむことも多いため、確認してみましょう。
- 寄付金控除など他の所得控除を受ける場合:ふるさと納税などの寄付金控除や、iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金控除などを適用する場合も確定申告が必要です。
- 年末調整を受けていない、または年末調整で控除しきれなかった場合:年の途中で休職・退職し、年末調整を受けていない場合や、年末調整で生命保険料控除などの所得控除を適用しきれなかった場合は、確定申告(還付申告)を行うことで払いすぎた税金が戻ってくる可能性があります。
ご自身の状況に合わせて、確定申告が必要かどうか、また申告することでメリットがあるかどうかを確認することが重要です。
社会保険料(健康保険料など)の扱いはどうなる?
傷病手当金を受給して会社を休んでいても、在職中であれば、原則として社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料、40歳以上の方は介護保険料)の支払いは免除されません。
傷病手当金は給与ではないため、社会保険料の天引きが行われない場合が多いです。しかし、保険料の支払い義務がなくなるわけではありません。保険料は、休職前の給与などから算出される「標準報酬月額」に基づいて計算され、引き続き発生します。
支払い方法については、会社によって対応が異なります。主なパターンは以下の通りです。
支払い方法の例 | 概要 |
---|---|
会社による立て替え払い | 会社が一時的に保険料を立て替え、復職後や賞与支給時などに精算する。 |
毎月会社へ振り込み | 休職者本人が、毎月指定された期日までに会社へ保険料を振り込む。 |
賞与からの控除 | 賞与が支給される場合、そこから休職期間中の保険料がまとめて控除される。 |
休職に入る前に、社会保険料の支払い方法について、必ず会社の担当部署(人事部や総務部など)に確認しておきましょう。支払いが滞ると、将来受け取る年金額に影響が出たり、延滞金が発生したりする可能性もあります。
なお、退職した場合は、会社の健康保険や厚生年金から脱退し、国民健康保険や国民年金への切り替え手続きが必要になります。
退職した場合の国民健康保険料について
傷病手当金を受給中に退職した場合、会社の健康保険の資格を喪失します。その後は、主に以下のいずれかの手続きが必要です。
- 国民健康保険に加入する
- 家族の健康保険の被扶養者になる(収入などの要件を満たす場合)
- 会社の健康保険を任意継続する(任意継続被保険者制度)
国民健康保険に加入する場合、保険料が発生します。国民健康保険料は、原則として前年の所得などに基づいて計算されるため、退職前の所得が高かった場合、退職後しばらくは保険料が高額になる可能性があります。 傷病手当金は非課税のため、国民健康保険料の算定基礎となる所得には含まれませんが、前年の給与所得などが影響します。
ただし、自治体によっては、会社の倒産や解雇といった非自発的な理由で離職した方(特定受給資格者や特定理由離職者)を対象に、国民健康保険料の軽減措置を設けている場合があります。 この軽減措置では、前年の給与所得を30/100として保険料が計算されます。傷病による自己都合退職の場合は通常、この軽減措置の対象外となりますが、離職理由によっては適用される可能性もゼロではありません。ご自身の状況が該当するかどうか、お住まいの市区町村の国民健康保険担当窓口に確認してみましょう。
また、「任意継続被保険者制度」を利用すれば、退職後も最長2年間、それまで加入していた会社の健康保険に継続して加入できます。保険料は原則として退職時の標準報酬月額に基づいて計算され、全額自己負担となります(在職中は会社が半額負担)。国民健康保険料と比較して、どちらが有利になるかは個々の状況によりますので、よく検討して選択しましょう。
まとめ
傷病手当金は所得税法において非課税所得と定められており、住民税の課税対象にもなりません。しかし、住民税は前年の所得に基づいて計算されるため、傷病手当金を受給している期間中でも、前年に一定以上の所得があれば納税義務が発生します。納税通知書は通常6月頃に届き、在職中は特別徴収、退職後は普通徴収で納付します。もし住民税の支払いが困難な場合は、お住まいの市区町村役場に相談し、減免や徴収猶予といった制度を利用できないか確認しましょう。
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