傷病手当金の受給期間が1年6ヶ月を超えて延長されることは原則ありません。この記事では、なぜ期間延長ができないのか、その理由を明確にします。さらに、期間満了後の生活を支える可能性がある障害年金や、退職した場合の失業保険(雇用保険)の受給期間延長といった代替制度について、申請方法も含めて解説。うつ病やがんなど、具体的なケースでの期間の考え方やよくある質問にも答えます。
傷病手当金の基本的な受給期間について
病気やケガで長期間仕事を休むことになった場合、生活を支える重要な制度の一つが「傷病手当金」です。しかし、その受給期間には限りがあります。ここでは、傷病手当金の基本的な受給期間について、制度の概要から期間の考え方まで詳しく解説します。
傷病手当金とは 制度の概要
傷病手当金は、健康保険の被保険者が業務外の病気やケガのために働くことができなくなり、会社を連続して3日間休んだ後、4日目以降も休業が続き、その間に給与の支払いがない(または傷病手当金の額より少ない)場合に支給される、生活保障を目的とした所得補償制度です。加入している健康保険(全国健康保険協会(協会けんぽ)や各企業の健康保険組合など)から支給されます。
主な支給要件は以下の通りです。
- 業務外の事由による病気やケガのための療養であること(業務上や通勤災害によるものは労災保険の対象)
- 療養のために働くことができない(労務不能)状態であること
- 連続する3日間(待期期間)を含み、4日以上仕事に就けなかったこと
- 休業した期間について、給与の支払いがないこと(給与が支払われても、傷病手当金の額より少ない場合は差額が支給されます)
この制度により、療養中の被保険者とその家族の生活を守ることが目的とされています。
支給期間は最長1年6ヶ月
傷病手当金が支給される期間は、支給を開始した日から起算して最長で1年6ヶ月です。これは、暦の上での期間を指し、実際に支給された日数の合計ではありませんでした(ただし、後述の通算化により考え方が変わっています)。
例えば、2021年4月1日に初めて傷病手当金の支給が開始された場合、2022年9月30日が期間の終期となります。この1年6ヶ月の間に、一時的に復職して給与が支払われた期間があったとしても、期間の終期が後ろにずれることはありませんでした(法改正前の扱い)。
この「最長1年6ヶ月」という期間は、傷病手当金の基本的なルールとして非常に重要です。期間の延長に関する疑問を考える上での大前提となります。
通算化による期間の考え方
2022年(令和4年)1月1日より、傷病手当金の支給期間の考え方が「通算化」されました。これにより、より柔軟な受給が可能になっています。
改正前と改正後の違いをまとめると以下のようになります。
項目 | 改正前 (~2021年12月31日) | 改正後 (2022年1月1日~) |
---|---|---|
期間の考え方 | 支給開始日から暦日で1年6ヶ月 | 支給開始日から実際に支給された日数が通算して1年6ヶ月に達するまで |
途中で復職した場合 | 復職期間も1年6ヶ月の期間に含まれるため、期間満了日は変わらない。復職期間分は支給されないまま期間が終了することがあった。 | 復職して不支給となった期間は1年6ヶ月の期間に含まれない。再度、同一の病気やケガで労務不能になった場合、残りの期間分の支給を再開できる。 |
支給期間の上限 | 1年6ヶ月(暦日) | 1年6ヶ月(支給日数) |
この通算化により、例えばがん治療などで入退院や休職・復職を繰り返すような場合でも、支給開始日から1年6ヶ月が経過した後でも、実際に支給された日数が1年6ヶ月に達していなければ、残りの期間について傷病手当金を受給できるようになりました。
ただし、重要な点として、この通算化はあくまで「支給期間の計算方法の変更」であり、支給される総量(日数)が1年6ヶ月を超えるものではありません。つまり、「期間延長」とは異なる概念であることに注意が必要です。
なお、この通算化が適用されるのは、2020年7月2日以降に支給が開始された傷病手当金です。それ以前に開始されたものは、従来の暦日計算となります。
傷病手当金の期間延長は原則できない
病気やケガで長期間働けない状況が続くと、「傷病手当金の支給期間を延長できないか」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、結論から申し上げますと、傷病手当金の支給期間は、原則として延長することはできません。
傷病手当金は、健康保険法に基づき、被保険者が病気やケガのために労務不能となった場合に、生活を支えるために設けられた所得保障制度です。その支給期間については、法律で明確に定められています。
なぜ期間延長が認められないのか
傷病手当金の支給期間が最長1年6ヶ月と定められ、原則として延長が認められないのには、いくつかの理由があります。
- 法律上の規定: 健康保険法において、傷病手当金の支給期間は「支給を開始した日から起算して1年6ヶ月を超えないものとする」と明確に規定されています(2022年1月1日以降は通算化)。これは、制度の根幹となるルールであり、個別の事情によって変更されるものではありません。
- 制度の役割分担: 日本の社会保障制度は、様々な制度がそれぞれの役割を担うことで成り立っています。傷病手当金は、比較的短期間の所得保障を目的としています。一方で、病気やケガが長期化し、回復が見込めない場合には、障害年金など、別の制度が対応することを想定しています。期間を区切ることで、適切な制度へ移行を促す側面もあります。
- 保険制度の持続可能性: 健康保険制度は、加入者(被保険者)や事業主が納める保険料によって運営されています。もし支給期間の延長を無制限に認めると、保険財政を圧迫し、制度自体の維持が困難になる可能性があります。そのため、公平性と持続可能性の観点から、支給期間には上限が設けられています。
これらの理由から、たとえ1年6ヶ月を経過しても病状が改善せず、就労が困難な状況が続いていたとしても、傷病手当金の支給期間が延長されることは基本的にありません。
1年6ヶ月の期間満了後の扱い
傷病手当金は、支給開始日から通算して1年6ヶ月に達した時点で、その支給が終了します。「通算」とは、途中で一時的に復職し、傷病手当金が支給されなかった期間があっても、支給された期間を合計して1年6ヶ月に達するまでという意味です。
したがって、支給期間が満了すると、たとえ同じ病気やケガが治癒しておらず、労務不能な状態が続いていたとしても、健康保険組合や協会けんぽからの傷病手当金の支給は完全にストップします。
期間満了が近づいている場合、または満了してしまった場合は、その後の生活設計を考える必要があります。収入が途絶えてしまう可能性があるため、他の公的な支援制度の利用を速やかに検討することが重要です。具体的にどのような制度が利用できる可能性があるかについては、後の章で詳しく解説します。
期間延長と混同しやすいケース 障害年金との違い
傷病手当金の受給期間は、支給開始日から通算して最長1年6ヶ月であり、原則としてこの期間を超えて延長することはできません。しかし、病気やケガが長引き、1年6ヶ月を過ぎても働くことが難しい場合、他の公的制度を利用できる可能性があります。その代表的な制度が「障害年金」です。傷病手当金と障害年金は、病気やケガで働けない場合に経済的な支援を受けられる点で共通していますが、全く異なる制度です。ここでは、混同しやすい傷病手当金と障害年金の違いについて詳しく解説します。
傷病手当金と障害年金は別の制度
傷病手当金と障害年金は、その目的、根拠法、運営主体、支給要件、支給期間などが異なります。まずは基本的な違いを理解しましょう。
項目 | 傷病手当金 | 障害年金 |
---|---|---|
目的 | 病気やケガによる休業中の所得保障(生活保障) | 病気やケガにより生活や仕事などが制限されるようになった場合の所得保障 |
根拠法 | 健康保険法 | 国民年金法、厚生年金保険法 |
運営主体 | 健康保険組合、協会けんぽ、共済組合など(医療保険者) | 日本年金機構 |
対象者 | 健康保険の被保険者(任意継続被保険者を除く) | 国民年金または厚生年金保険の被保険者(または被保険者であった者) |
主な支給要件 |
|
|
支給期間 | 支給開始日から通算して最長1年6ヶ月 | 障害状態が続く限り原則として生涯(または次の更新まで) ※障害等級により異なる場合あり |
申請先 | 加入している健康保険組合、協会けんぽなど | 年金事務所または街角の年金相談センター |
このように、傷病手当金は比較的短期間の所得保障を目的としているのに対し、障害年金は長期にわたる生活の支えとなることを目的とした制度です。傷病手当金の期間満了が近づいている方や、満了後も就労が困難な方は、障害年金の受給可能性について検討することが重要になります。
障害年金の受給要件
障害年金を受給するためには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。
初診日の要件
「初診日」とは、障害の原因となった病気やケガについて、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日を指します。この初診日に、原則として国民年金または厚生年金保険の被保険者である必要があります。どの年金制度に加入していたかによって、受給できる障害年金の種類(障害基礎年金、障害厚生年金)が決まります。
- 障害基礎年金:初診日に国民年金に加入していた場合など
- 障害厚生年金:初診日に厚生年金保険に加入していた場合
初診日を正確に特定し、証明することが障害年金申請の第一歩となります。
保険料納付要件
初診日の前日において、一定期間、年金保険料を納付していることが必要です。具体的には、以下のいずれかの条件を満たす必要があります。
- 初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間のうち、3分の2以上の期間について保険料が納付または免除されていること。
- 初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がないこと。(令和8年3月末日までの特例)
保険料の未納期間が多いと、他の要件を満たしていても障害年金を受給できない場合があります。ご自身の納付状況は「ねんきんネット」や年金事務所で確認できます。
障害状態の要件
「障害認定日」において、法令で定められた障害等級(1級、2級、3級)に該当する程度の障害状態にあることが必要です。障害認定日は、原則として初診日から1年6ヶ月を経過した日、またはそれ以前に症状が固定した場合はその日となります。
- 障害基礎年金:1級または2級
- 障害厚生年金:1級、2級または3級(3級より軽い場合は、一時金として障害手当金が支給される場合あり)
障害の程度は、医師が作成する診断書をもとに日本年金機構が判断します。傷病手当金の「労務不能」とは異なり、日常生活や労働能力がどの程度制限されているかという、より具体的な基準で判断されます。
傷病手当金から障害年金への切り替え
傷病手当金を受給している期間中に、障害年金の受給要件を満たす場合(特に初診日から1年6ヶ月経過後)は、障害年金を申請することができます。ただし、注意点があります。
同じ病気やケガを原因として、傷病手当金と障害厚生年金(または障害手当金)を同時に受け取ることはできません。両方の受給権がある場合、原則として傷病手当金の支給額が調整(減額または支給停止)されます。これを「併給調整」といいます。
一方、障害基礎年金と傷病手当金は、支給調整の対象とはなりません。したがって、障害基礎年金の受給権がある場合は、傷病手当金と同時に満額を受け取れる可能性があります。
傷病手当金の受給期間が満了した後であれば、併給調整を気にすることなく障害年金を申請・受給できます。傷病手当金の受給期間満了が近づき、引き続き療養が必要な場合は、早めに障害年金の申請準備を進めることが推奨されます。障害年金の申請には、初診日の証明や診断書の取得など、時間がかかるケースも多いためです。
傷病手当金の期間延長はできませんが、障害年金という別の制度によって、長期的な経済的支援を受けられる可能性があることを理解しておきましょう。
傷病手当金受給期間満了後に利用できる可能性のある制度
傷病手当金の支給期間である最長1年6ヶ月が満了しても、病気やケガが治らず、すぐに社会復帰が難しい場合があります。そのような状況で利用できる可能性のある公的な制度について解説します。
障害年金 申請手続きの流れ
傷病手当金の受給期間が満了する頃、または満了後も働くことが困難な障害状態にある場合、障害年金の受給を検討できます。障害年金は、病気やケガによって一定の障害状態にあると認定された場合に支給される年金です。傷病手当金とは別の制度であり、受給するには新たに申請手続きが必要です。
申請手続きの大まかな流れは以下の通りです。
ステップ | 内容 | 主な場所・必要なもの |
---|---|---|
1. 事前相談・書類準備 | 年金事務所や街角の年金相談センターで、受給資格や手続きについて相談します。診断書など、申請に必要な書類の準備を開始します。初診日を証明する書類(受診状況等証明書)や、現在の障害状態を示す診断書が特に重要です。 | 年金事務所、街角の年金相談センター、医療機関 / 年金手帳、マイナンバーカード、診断書作成依頼 |
2. 請求書類の作成 | 年金請求書や、病気やケガの発症から現在までの経緯を記載する「病歴・就労状況等申立書」を作成します。ご自身の状況を正確に、具体的に記載することがポイントです。 | 自宅、支援機関 / 年金請求書、病歴・就労状況等申立書、収集した証明書類 |
3. 請求書類の提出 | 準備した書類一式を、お近くの年金事務所または街角の年金相談センターに提出します。国民年金(障害基礎年金)のみの場合は、市区町村役場の窓口でも提出可能です。 | 年金事務所、街角の年金相談センター、市区町村役場 / 作成・収集した書類一式 |
4. 審査・決定 | 提出された書類に基づき、日本年金機構で審査が行われます。審査には通常、数ヶ月程度の時間がかかります。状況に応じて、追加書類の提出や聞き取り調査が行われることもあります。 | 日本年金機構 |
5. 結果通知 | 審査結果が「年金証書」(支給決定の場合)または「不支給決定通知書」で郵送されます。支給が決定された場合は、通知に記載されたスケジュールで年金が振り込まれます。 | 自宅(郵送) / 年金証書または不支給決定通知書 |
障害年金の申請は複雑な場合も多いため、不明な点があれば年金事務所や社会保険労務士などの専門家へ相談することをおすすめします。
失業保険(雇用保険)の受給期間延長
傷病手当金の受給期間が満了し、退職した場合でも、病気やケガのためにすぐに働くことができない状況であれば、失業保険(雇用保険の基本手当)の受給期間を延長できる可能性があります。
退職後の選択肢として
失業保険は、働く意思と能力があるにもかかわらず、仕事に就けない場合に支給されるものです。そのため、病気やケガで療養が必要な期間は、原則として失業保険を受給できません。
しかし、本来失業保険を受け取れる期間(原則として離職日の翌日から1年間)内に病気やケガなどで30日以上継続して働けない状態が続く場合、働けない日数分だけ受給期間を延長できる制度があります。これにより、回復して求職活動を開始できるようになった時点で、失業保険を受け取れる可能性が残ります。延長できる期間は、本来の受給期間1年間に加えて最長3年間、合計で最長4年間となります。
受給期間延長の申請方法
失業保険の受給期間延長を申請するには、以下の手続きが必要です。
- 申請期間: 離職日の翌日から起算して30日を経過した後、早期に(原則として1ヶ月以内)申請する必要があります。
- 申請場所: ご自身の住所を管轄するハローワーク
- 必要なもの(主なもの):
- 受給期間延長申請書(ハローワークで入手可能)
- 離職票(通常、退職後に会社から交付されます)
- 引き続き30日以上職業に就くことができない状態であることを証明する書類(医師の診断書など)
- 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
- 印鑑
申請が遅れると延長が認められない場合があるため、退職後、働けない状態が続く場合は速やかにハローワークに相談しましょう。手続きの詳細は、管轄のハローワークにお問い合わせください。
その他利用できる公的支援
障害年金や失業保険の受給期間延長以外にも、生活状況に応じて利用できる公的な支援制度があります。
- 生活困窮者自立支援制度: 経済的に困窮し、最低限度の生活を維持することが困難な場合に、自立に向けた相談支援や各種給付(住居確保給付金、就労準備支援など)を受けられる制度です。お住まいの自治体の福祉担当窓口や、自立相談支援機関が相談先となります。
- 生活保護制度: 資産や能力などすべてを活用してもなお生活に困窮する場合に、国が定める最低限度の生活を保障し、自立を助けることを目的とした制度です。お住まいの地域を管轄する福祉事務所が申請・相談窓口です。
- 自治体独自の支援制度: 各市区町村によっては、医療費の助成や、その他の生活支援に関する独自の制度を設けている場合があります。詳細はお住まいの自治体のウェブサイトや窓口でご確認ください。
傷病手当金の受給期間が満了しても、利用できる制度は複数あります。ご自身の状況に合わせて、利用可能な制度がないか、早めに情報収集や相談を行うことが大切です。
まとめ
傷病手当金の支給期間は、支給開始日から通算して最長1年6ヶ月であり、原則として期間の延長はできません。これは、制度が長期的な所得保障を目的としていないためです。期間が満了した後も療養が必要な場合は、障害年金への切り替えや、退職している場合は失業保険(雇用保険)の受給期間延長といった他の公的支援制度の利用を検討しましょう。ご自身の状況に応じた最適な選択をするために、不明な点は加入している健康保険組合や協会けんぽ、または社会保険労務士などの専門家へ相談することをおすすめします。
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