傷病手当金 不正受給はバレる?厳しい罰則と発覚する理由を解説

退職のミカタ

傷病手当金の不正受給は、保険者の調査や通報、マイナンバー連携などにより発覚する可能性が高いです。この記事を読めば、虚偽申請や就労隠しといった不正受給の具体例、バレる理由、全額返還や刑事告発といった厳しい罰則、そして不正受給を防ぐための正しい申請方法や注意点がわかります。万が一、不正受給を疑われた場合の冷静な対処法も解説し、安心して制度を利用するための知識を提供します。

目次

傷病手当金とは 不正受給が問題視される背景

傷病手当金は、健康保険の被保険者が業務外の病気やケガが原因で働くことができなくなり、会社から十分な給与を受けられない場合に、被保険者本人とその家族の生活を支えるために設けられた公的な所得保障制度です。この制度により、療養に専念し、経済的な不安を軽減しながら回復を目指すことが可能になります。加入している健康保険(協会けんぽや各健康保険組合など)から支給されます。

傷病手当金を受け取るためには、主に以下の条件をすべて満たす必要があります。

支給要件具体的な内容
業務外の事由による病気やケガでの療養仕事中や通勤途中の病気やケガは労災保険の対象となるため、傷病手当金の対象外です。私生活における病気やケガで、医師が療養の必要があると認めた場合に限られます。なお、美容整形など、病気とはみなされないものは対象となりません。
労務不能であること療養のために、これまで従事していた仕事に就くことができない状態であることが必要です。自己判断ではなく、医師の診断書や意見書に基づき、保険者(健康保険組合や協会けんぽ)が客観的に判断します。
連続する3日間の待期期間の完成病気やケガで休み始めた日から連続して3日間(待期期間)が経過した後、4日目以降の休業日に対して支給されます。この待期期間には、有給休暇を取得した日や土日祝日などの公休日も含まれます。給与の支払いがあったかどうかは問いません。
休業期間中に給与の支払いがないこと原則として、休業している期間について、会社から給与が支払われていないことが条件です。ただし、給与が支払われた場合でも、その額が傷病手当金の支給額よりも少ない場合は、その差額分が支給されます。

支給される期間は、同一の病気やケガに関して、支給が開始された日から通算して最長1年6ヶ月間です(令和4年1月1日より、支給期間が通算化されました)。支給額は、大まかには休業前の標準報酬月額(過去12ヶ月間の平均)を基に計算され、1日あたりおよそ給与の3分の2相当額が支給されます。

このように、傷病手当金は病気やケガで働けなくなった際の重要なセーフティネットですが、残念ながら、この制度の趣旨を悪用し、不正に手当金を受け取ろうとするケースが後を絶たず、近年大きな社会問題としてクローズアップされています。

不正受給がこれほどまでに問題視される背景には、いくつかの深刻な理由があります。

  • 貴重な保険財政への深刻な打撃: 傷病手当金の財源は、私たち被保険者や事業主が日々納めている健康保険料によって賄われています。不正受給は、この貴重な財源を不当に流出させる行為であり、健康保険組合や協会けんぽの財政状況を悪化させる直接的な原因となります。財政が悪化すれば、将来的に保険料率の引き上げや、他の保険給付(医療費の自己負担割合の増加など)の見直しにつながる可能性があり、制度を正しく利用している大多数の加入者に不利益をもたらすことになります。
  • 制度の公平性と信頼性の毀損: 本来、真に支援を必要としている療養中の人々に行き渡るべき公的な給付金が、偽りやごまかしによって不正に受給されることは、社会保障制度の根幹である公平性を著しく損なう行為です。また、「不正受給してもバレない」といった誤った認識が広がれば、制度全体のモラルハザードを引き起こし、傷病手当金制度そのものへの国民の信頼を失墜させることにもなりかねません。
  • 社会的な関心の高まりと調査・罰則の厳格化: 不正受給の手口の巧妙化や、その実態がメディア等で報じられる機会が増えたことにより、不正受給に対する社会的な監視の目は年々厳しくなっています。これを受けて、保険者である健康保険組合や協会けんぽは、申請内容の審査や受給中の状況確認、関係機関への照会といった調査体制を強化しています。さらに、不正が発覚した場合のペナルティも厳格化される傾向にあります。

傷病手当金は、あくまでも病気やケガで一時的に働けなくなった際の生活を支えるための大切な制度です。軽い気持ちや誤った知識で不正に申請・受給することは、単なるルール違反ではなく、社会全体の財産を損なう重大な不正行為であることを認識する必要があります。次章以降では、具体的にどのような行為が不正受給とみなされるのか、そして不正受給が発覚した場合に科される厳しい罰則について、詳しく解説していきます。

こんな行為はNG 傷病手当金の不正受給となる具体的なケース

傷病手当金は、病気やケガで働けなくなった方の生活を支える大切な制度です。しかし、残念ながらルールを守らずに不正に受給しようとするケースも後を絶ちません。軽い気持ちで行った行為が、意図せず不正受給とみなされてしまう可能性もあります。ここでは、どのような行為が不正受給に該当するのか、具体的なケースを見ていきましょう。

虚偽の診断書や申請内容による不正受給

最も悪質とされるのが、事実と異なる内容で申請を行うケースです。 具体的には以下のような行為が該当します。

  • 症状の偽装・誇張:実際には軽微な症状であるにもかかわらず、重篤であるかのように偽って診断書を取得したり、申請書に記載したりする。
  • 通院実績の偽装:必要な通院をしていないにもかかわらず、通院したかのように偽る。
  • 労務不能期間の偽装:実際には働ける状態に回復しているにもかかわらず、まだ働けないと偽って申請を続ける。
  • ケガの原因の偽装:業務外のケガ(私傷病)であるにもかかわらず、通勤災害や業務災害であるかのように偽って申請する(これは労災保険の不正受給にも該当します)。

これらの行為は、単なる記載ミスではなく、意図的な虚偽申請であり、発覚した場合には非常に重いペナルティが科されます。

働いているのに隠して傷病手当金を受け取る不正受給

傷病手当金は「労務不能」であること、つまり病気やケガのために働くことができない状態であることが支給の絶対条件です。療養中に働いて収入を得ているにもかかわらず、その事実を隠して傷病手当金を受け取ることは、典型的な不正受給です。

注意すべき点は、「働く」ことの範囲です。以下のようなケースも「就労」とみなされ、申告が必要となります。

就労の形態注意点
アルバイト・パートタイム労働短時間であっても、収入が発生する労働は申告が必要です。 「少しだけならバレないだろう」という考えは非常に危険です。
自営業・フリーランス自宅での作業や、体調を見ながら少しずつ業務を再開した場合でも、収入が発生していれば申告義務があります。
リモートワーク・在宅ワーク出社していなくても、業務を行い報酬を得ていれば就労とみなされます。
試し出勤・リハビリ出勤会社の指示や配慮で行われる短時間の試し出勤なども、状況によっては就労と判断される場合があります。必ず事前に保険者(健康保険組合や協会けんぽ)に確認しましょう。
内職軽微な作業であっても、継続的に収入を得ている場合は申告が必要です。

傷病手当金を受給している期間中に少しでも働いた場合、または働ける状態になった場合は、必ず保険者に届け出る義務があります。 これを怠ると不正受給と判断されます。

副業収入を申告しない不正受給

本業を休んで傷病手当金を受給している間に、副業で収入を得ている場合も、その収入を隠していると不正受給になります。 近年増加している副業の形態には、以下のようなものがあります。

  • ネットオークション、フリマアプリでの販売収入(継続的な事業として行っている場合)
  • アフィリエイト、ブログ、動画配信などによる広告収入
  • 株式投資、FX、仮想通貨などの投資による収入(ただし、収入の性質によっては判断が異なる場合があります)
  • 不動産賃貸収入
  • クラウドソーシングなどでの業務委託収入

副業による収入が少額であっても、あるいは不定期であっても、原則として申告が必要です。 どのような収入が申告対象となるか不明な場合は、必ず保険者に確認してください。

医師との不適切な連携による不正受給

医師に対して自身の症状を偽ったり、不当に長期間の労務不能期間を証明するよう依頼したりすることも、不正受給につながる行為です。

  • 医師に症状を過剰に訴え、実態と異なる診断書を作成させる。
  • 実際には回復しているにもかかわらず、就労可能である旨の診断を拒否するよう医師に働きかける。

このような行為は、医師との信頼関係を損なうだけでなく、医師自身も不正に関与したとして責任を問われる可能性があります。 医師には、ご自身の症状や状態を正確に伝えることが重要です。

その他 注意すべき不正受給のパターン

上記以外にも、以下のようなケースが不正受給とみなされる可能性があります。

  • 海外渡航中の受給: 療養に専念すべき期間に、私的な観光目的などで長期間海外へ渡航し、その間の傷病手当金を受給した場合、不正受給と判断されることがあります。渡航目的や期間、医師の指示などを総合的に判断されます。
  • 治癒後の受給継続: 医師が「治癒(症状固定を含む)」と判断した後も、申請を続けて傷病手当金を受け取る行為。
  • 複数の制度からの二重受給: 同一の傷病を理由として、他の公的制度(例:労災保険の休業補償給付など)から給付を受けているにもかかわらず、傷病手当金を同時に満額受給しようとする場合(調整されるべきケースで申告を怠るなど)。
  • 自傷行為による傷病: 故意に自分自身を傷つけたことによる病気やケガ(自傷行為)は、原則として傷病手当金の支給対象外です。これを隠して申請した場合、不正受給となります。

これらのケースに心当たりがないか、自身の状況を正確に把握し、正直に申請・報告することが、不正受給を防ぐための第一歩です。少しでも疑問や不安がある場合は、安易に自己判断せず、必ず保険者や専門家へ相談するようにしましょう。

傷病手当金の不正受給はなぜバレるのか その発覚理由を徹底解説

「少しぐらいならバレないだろう」「うまくやれば大丈夫」と考えて傷病手当金を不正に受給しようとするケースがありますが、それは非常に危険な考えです。傷病手当金の支給を行う保険者(全国健康保険協会けんぽ、健康保険組合など)は、不正受給を防止するための調査体制を整えており、発覚する可能性は決して低くありません。 ここでは、傷病手当金の不正受給がどのようにして発覚するのか、その具体的な理由を詳しく解説します。

保険者(健康保険組合や協会けんぽ)による調査

傷病手当金の不正受給が発覚する最も一般的なケースが、保険者自身による調査です。保険者は、公的な保険給付を適正に行う責任があり、不正受給の疑いがある場合には、厳格な調査を実施します。

調査のきっかけ 定期確認や抜き打ちチェック

保険者による調査は、特定のきっかけがなくとも行われることがあります。主なきっかけとしては、以下のようなものが挙げられます。

  • 定期的な状況確認: 受給期間中、療養状況や就労の可否について、定期的に確認が行われます。
  • 申請内容の審査: 提出された申請書類の内容に不審な点や矛盾点がないか、詳細に審査されます。
  • 長期受給・高額給付: 受給期間が長期にわたる場合や、給付額が高額になる場合、より慎重な審査や調査が行われる傾向があります。
  • 抜き打ちチェック(サンプリング調査): 不正受給を牽制し、早期に発見するために、無作為に抽出された申請に対して詳細な調査が行われることがあります。
  • 過去の不正受給歴: 過去に不正受給やそれに類する行為があった場合、マークされやすくなる可能性があります。

調査内容 勤務先や医療機関への照会 電話や文書での確認

不正受給の疑いが生じた場合、保険者は以下のような多角的な調査を行います。

調査対象主な調査内容調査方法
申請者本人療養状況、日常生活の状況、就労の有無、収入状況、申請内容の確認電話での聞き取り、文書による照会、面談、訪問調査
勤務先(会社)在籍状況、休職期間、出勤状況、業務内容、復職の状況、給与支払いの有無電話での確認、文書による照会
医療機関(病院・クリニック)受診状況、診断内容、治療経過、症状の程度、就労不能と判断した医学的根拠文書による照会(主治医意見書の再確認など)、電話での確認
その他関係機関他の公的給付の受給状況(雇用保険など)、副業先の情報など必要に応じた照会

これらの調査により、申請内容と実際の状況に食い違いがないか、徹底的に確認されます。 特に、勤務先や医療機関への照会は、不正受給を発見する上で非常に有効な手段となっています。

医療機関からの情報提供や疑義照会

傷病手当金の申請には、医師による「労務不能」であることの証明が不可欠です。しかし、医師が診察を進める中で、患者の申告する症状と実際の様子に矛盾を感じたり、明らかに就労可能な状態であるにも関わらず休職を続けようとしたりする場合、医師が保険者に対して疑義照会を行うケースがあります。 医師は患者の健康を守る立場ですが、同時に公的な制度の適正利用にも協力する責務があるため、不正が疑われる場合には、守秘義務とのバランスを考慮しつつ、保険者に情報提供することがあります。

勤務先(会社)からの情報提供や問い合わせ

休職中の従業員の様子について、会社が不審に思うケースも少なくありません。例えば、「休職中のはずなのに、アルバイトをしているらしい」「SNSで元気に旅行している写真を見た」「同僚が、本人が働いているのを目撃した」といった情報が会社に寄せられることがあります。また、退職後の手続きや、他の従業員からの情報提供などをきっかけに、会社側が従業員の不正受給を疑い、保険者に問い合わせや情報提供を行うことがあります。 会社としても、不正受給に関与していると見なされるリスクを避けるため、疑わしい点があれば保険者に確認する動機があります。

第三者からの通報(密告)による不正受給の発覚

意外に多いのが、同僚、友人、知人、あるいは家族など、身近な人物からの通報(密告)によって不正受給が発覚するケースです。不正な行為を快く思わない人物が、保険者の通報窓口や、場合によっては勤務先に情報を提供することがあります。匿名での通報も受け付けられている場合が多く、誰が通報したか分からないまま調査が開始されることもあります。「誰も見ていないだろう」という油断は禁物です。

マイナンバー制度導入による所得情報の把握強化

マイナンバー制度の導入により、個人の所得情報を国がより正確かつ効率的に把握できるようになりました。 保険者は、傷病手当金の申請情報と、マイナンバーを通じて連携される可能性のある税務情報(給与所得、副業による雑所得や事業所得など)を将来的に突合しやすくなることが考えられます。これにより、傷病手当金を受給しながら別の場所で働いて得た収入(副業収入など)を隠していても、発覚するリスクが高まっています。確定申告の情報などからも、不正が見つかる可能性があります。

他の公的手続きから不正受給が発覚するケース

傷病手当金以外にも、世の中には様々な公的な給付制度や手続きがあります。例えば、以下のような手続きの際に、傷病手当金の不正受給が発覚することがあります。

  • 雇用保険(失業保険)の手続き: 傷病手当金を受給している期間は、原則として雇用保険の基本手当(失業保険)を受給できません。両方の制度に矛盾する申請を行うと、不正が発覚します。
  • 年金の申請手続き: 障害年金などの申請時に、過去の就労状況や所得状況が確認され、傷病手当金の受給状況との矛盾が見つかる場合があります。
  • 確定申告: 副業収入などを確定申告する際に、その収入を得ていた期間が傷病手当金の受給期間と重なっていることが判明する場合があります。
  • 他の社会保険給付の申請: 労災保険など、他の社会保険給付の申請内容との整合性が取れない場合に、調査の対象となることがあります。

このように、一つの不正が、他の公的な手続きを通じて明るみに出ることも少なくありません。各制度は連携して不正防止に努めています。

傷病手当金の不正受給が発覚した場合の重いペナルティとは

軽い気持ちで行った申請が、実は不正受給に該当していたというケースも少なくありません。しかし、傷病手当金の不正受給が発覚した場合、単に「知らなかった」では済まされない、非常に重いペナルティが科せられます。ここでは、具体的にどのような処分が待っているのかを詳しく解説します。

受け取った傷病手当金の全額返還命令

傷病手当金の不正受給が認定された場合、原則として、不正に受け取った傷病手当金の全額を返還しなければなりません。これは、不正受給が発覚した時点までの受給総額が対象となります。分割での返還が認められる場合もありますが、基本的には一括での返還を求められることが多く、経済的に大きな負担となります。

返還義務は健康保険法第58条などに基づいており、法的根拠のある強制力を持った命令です。もし返還に応じない場合は、財産の差し押さえなどの強制執行が行われる可能性もあります。

厳しい延滞金の加算

不正受給した傷病手当金の返還には、厳しい延滞金が加算されるのが一般的です。延滞金は、傷病手当金を受け取った日の翌日から返還金を納付する日までの日数に応じて、法定の利率に基づいて計算されます。

この利率は決して低いものではなく、返還が遅れれば遅れるほど延滞金の額は膨らんでいきます。結果として、実際に受け取った金額よりもはるかに多くの金額を支払わなければならなくなるケースも珍しくありません。全額返還に加えて、この延滞金の負担も非常に重いペナルティと言えます。

悪質な不正受給は詐欺罪で刑事告発される可能性

不正受給が悪質であると判断された場合、健康保険組合や協会けんぽから詐欺罪として刑事告発される可能性があります。単なる申請ミスや認識不足ではなく、意図的に虚偽の申請を行ったり、就労の事実を隠蔽したりするなど、計画性や悪質性が高いとみなされるケースが該当します。

刑事告発され、有罪判決となれば、当然ながら前科がつくことになります。これは、今後の人生において計り知れない不利益をもたらす、最も重いペナルティの一つです。

詐欺罪が適用された場合の罰則

傷病手当金の不正受給が詐欺罪(刑法第246条)に該当すると判断された場合、法律に基づき以下の罰則が科せられる可能性があります。

罪状法定刑
詐欺罪(刑法第246条)10年以下の懲役

このように、懲役刑という非常に重い刑罰が定められています。軽い気持ちで行った不正受給が、自身の人生を大きく狂わせる結果を招く可能性があることを、絶対に忘れてはいけません。

今後の社会保険給付に影響が出る可能性も

傷病手当金の不正受給を行ったという事実は、社会保険に関する記録として残る可能性があります。これにより、将来的に他の社会保険給付(例えば、失業手当(基本手当)や年金など)を申請する際に、審査が厳しくなったり、何らかの不利益な影響が出たりすることも考えられます。

一度失った信用を取り戻すのは容易ではありません。不正受給は、目先の利益のために将来にわたる大きなリスクを背負う行為であることを、十分に認識しておく必要があります。

傷病手当金の不正受給を防ぐために 申請時の注意点と対策

傷病手当金は、病気やケガで働けなくなった際の生活を支える重要な制度です。しかし、その申請や受給中の手続きを誤ると、意図せず不正受給とみなされてしまう可能性 もあります。ここでは、不正受給を防ぎ、安心して制度を利用するための具体的な注意点と対策を解説します。

申請書類は正確な情報を正直に記載する

傷病手当金の申請において、提出する書類は保険者が支給可否を判断するための最も重要な根拠となります。そのため、申請書や添付書類には、いかなる情報も正確かつ正直に記載する 必要があります。

氏名、住所、振込先口座はもちろん、療養を担当する医師の証明、ご自身の療養期間、仕事内容、そして特に重要な「労務不能であった期間」や「報酬の有無・金額」については、事実に基づいて正確に記入してください。記憶違いや勘違いによる記載ミスも、場合によっては疑念を招く原因となり得ます。ましてや、受給したいがために事実と異なる内容を記載することは、明確な不正行為 です。「少しぐらいならバレないだろう」という安易な考えは絶対に持たないでください。

申請書類の作成に際して不明な点があれば、必ず保険者(ご加入の健康保険組合や協会けんぽ)や会社の担当部署に確認しましょう。

就労や収入状況が変わったら速やかに届け出る義務

傷病手当金の受給期間中に、ご自身の状況に変化があった場合は、速やかに保険者へ届け出る義務 があります。特に、就労や収入に関する変更は、支給額や支給可否に直接影響するため、必ず報告が必要です。

届け出が必要となる主なケースは以下の通りです。

状況変化の例届け出の要否注意点
症状が回復し、短時間でも働けるようになった(リハビリ出勤含む)必要たとえ元の業務でなくても、労働の対価として報酬を得る場合は届け出が必要です。
医師から就労可能の診断を受けた必要実際に働き始める前でも、就労可能と判断された時点で報告が求められる場合があります。
在宅ワークや内職、副業などで収入を得た必要本業以外であっても、労務の対価として収入を得た場合は申告が必要です。金額の多寡に関わらず報告しましょう。
退職した、または雇用形態が変わった必要受給資格や手続きに変更が生じる可能性があります。
他の公的給付(障害年金など)を受け始めた必要傷病手当金と他の給付金が調整される場合があります。

これらの変更があったにも関わらず届け出を怠ると、不正受給と判断され、後々大きなペナルティを科される ことになります。状況が変わった際は、自己判断せず、速やかに保険者に連絡し、指示に従ってください。

医師とは症状や就労可否について正確な情報を共有する

傷病手当金の申請には、医師による「労務不能」であることの証明が不可欠です。そのため、診察時にはご自身の症状や回復状況、日常生活の様子などをできる限り正確に、正直に医師に伝える ことが非常に重要です。

例えば、「本当は少しなら働ける状態なのに、受給を続けたいから『全く動けない』と伝える」「痛みが和らいでいるのに、大げさに痛みを訴える」といった行為は、医師の判断を誤らせ、結果的に虚偽の診断書作成につながる可能性 があります。これは不正受給の典型的なパターンの一つです。

医師は患者からの情報をもとに診断を行います。回復状況や就労への意欲、不安な点なども含め、正直にコミュニケーションをとることで、適切な診断と証明を受けることができます。疑問や不安があれば、遠慮なく医師に質問し、認識のずれがないようにしましょう。

少しでも疑問があれば保険者や専門家に相談する

傷病手当金の制度は複雑な部分もあり、「この場合はどうなるのだろう?」「この収入は申告すべき?」など、判断に迷う場面が出てくるかもしれません。そのような場合は、決して自己判断せず、必ず公的な窓口や専門家に相談 してください。

主な相談先としては、以下のような機関があります。

  • ご加入の健康保険組合
  • 全国健康保険協会(協会けんぽ)の支部
  • 勤務先の総務・人事担当部署
  • 社会保険労務士(社労士)

特に社会保険労務士は、社会保険制度全般の専門家であり、個別の状況に応じた的確なアドバイスが期待できます。相談には費用がかかる場合もありますが、誤った判断で不正受給となるリスクを考えれば、専門家の助言を求める価値は大きい と言えるでしょう。

疑問点を放置したり、不確かな情報(インターネット上の匿名の書き込みなど)を鵜呑みにしたりせず、信頼できる情報源に確認することが、不正受給を防ぐための確実な方法です。

もし傷病手当金の不正受給を疑われたら 冷静な対応方法

万が一、あなたが傷病手当金の不正受給を疑われ、保険者(健康保険組合や協会けんぽなど)から問い合わせや調査の連絡を受けた場合、まずはパニックにならず冷静に対応することが非常に重要です。身に覚えがない場合でも、疑いをかけられること自体に大きな不安を感じるかもしれませんが、感情的にならず、事実に基づいて誠実に対応する姿勢が求められます。

ここでは、不正受給を疑われた際に取るべき具体的な対応方法を解説します。

保険者からの調査には誠実に対応する

保険者からの連絡(電話、文書、場合によっては訪問調査)があった場合、無視したり、虚偽の説明をしたりすることは絶対に避けてください。そのような対応は、かえって疑いを深め、状況を悪化させる可能性があります。

調査の目的は、申請内容と実際の状況に相違がないかを確認することです。保険者からの質問には、正直かつ丁寧な言葉遣いで、覚えている範囲で正確に回答しましょう。もし、記憶が曖昧な点や不明な点があれば、その旨を正直に伝えることが大切です。

連絡を受けた際には、以下の点を記録しておくと、後の対応に役立ちます。

  • 連絡があった日時
  • 対応した保険者の担当者名と所属部署
  • 問い合わせや調査の内容
  • 自分が回答した内容の要点

協力的な姿勢を示し、事実確認に誠実に応じることが、疑いを晴らすための第一歩となります。

自身の正当性を証明できる資料を準備する

保険者からの疑義に対して、自身の主張が正当であることを客観的に証明するためには、証拠となる資料の準備が不可欠です。どのような点を疑われているのかを把握した上で、それに対する反証資料を集めましょう。

具体的にどのような資料が有効かはケースバイケースですが、一般的に以下のようなものが考えられます。

資料の種類証明できる可能性のある内容
診断書・診療明細書病名、症状の程度、治療内容、医師が判断した労務不能期間など、医学的な根拠を示します。
医師の意見書診断書だけでは伝わりにくい、より詳細な病状や就労能力に関する医師の見解を示します。(必要に応じて作成を依頼)
出勤簿・タイムカード実際に会社を休んでいた期間、勤務時間など、労務不能であった期間の勤怠状況を示します。
給与明細欠勤による賃金の減額状況や、傷病手当金受給期間中の給与支払いがない(または減額されている)ことを示します。
業務日誌・メール・チャット履歴など体調不良により業務に支障が出ていた具体的な状況や、上司・同僚とのやり取りなど、労務不能であった状況を補強します。
通院記録・リハビリテーション実施記録治療に専念していた事実、定期的な通院状況を示します。
(副業がある場合)副業先の勤務記録・収入証明副業の労働時間や収入額が、傷病手当金の支給要件に影響しない範囲であることを示します。

これらの資料は、日付や内容が明確で、客観性が高いものであるほど、証拠としての価値が高まります。手元にない資料については、速やかに医療機関や勤務先に発行を依頼しましょう。資料を整理し、保険者から提出を求められた際に、すぐに提示できるように準備しておくことが重要です。

不安な場合は社会保険労務士などの専門家へ相談を検討

保険者とのやり取りや資料の準備に不安を感じる場合、あるいは保険者の主張に納得がいかない場合は、一人で抱え込まずに専門家へ相談することを検討しましょう。傷病手当金に関する問題について相談できる専門家としては、主に社会保険労務士や弁護士が挙げられます。

社会保険労務士への相談

社会保険労務士は、労働・社会保険に関する手続きや相談の専門家です。傷病手当金の制度に精通しており、以下のようなサポートが期待できます。

  • 保険者からの照会に対する適切な対応方法のアドバイス
  • 正当性を主張するための必要書類の収集・作成サポート
  • 保険者との交渉や説明の代理
  • 不支給決定に対する不服申し立て(審査請求・再審査請求)の手続き代行

特に、制度の解釈や手続き面でのサポートに強みがあります。

弁護士への相談

弁護士は、法律全般の専門家であり、法的な観点からアドバイスや代理業務を行います。以下のような場合に相談を検討するとよいでしょう。

  • 保険者との間で法的な争点が生じている場合
  • 不正受給が悪質と判断され、刑事告発(詐欺罪)の可能性を示唆されている場合
  • 不服申し立て(審査請求・再審査請求)を経ても解決せず、行政訴訟を検討している場合

法的トラブルに発展する可能性がある場合や、より強力な法的サポートが必要な場合に頼りになります。

専門家への相談には費用がかかりますが、的確なアドバイスやサポートを受けることで、精神的な負担が軽減され、問題を有利に進められる可能性があります。また、早期に相談することで、事態が悪化する前に対策を講じやすくなります。無料相談を実施している事務所や、法テラス(日本司法支援センター)などの公的な相談窓口を利用することも検討しましょう。

いずれにしても、不正受給を疑われた際は、冷静かつ誠実な対応を心がけ、必要に応じて適切な資料を準備し、不安な場合は専門家の力を借りることが、問題を解決するための鍵となります。

まとめ

傷病手当金は、病気やケガで働けない間の生活を支える重要な制度ですが、虚偽の申請や就労隠しといった不正受給は絶対に許されません。保険者による調査、医療機関や勤務先からの情報、第三者の通報、マイナンバー制度による所得把握など、様々な方法で発覚する可能性は極めて高いです。不正受給が発覚した場合、受け取った手当金の全額返還はもちろん、重い延滞金や詐欺罪による刑事告発といった厳しいペナルティが科されます。申請は必ず正確な情報で行い、状況に変化があれば速やかに届け出ることが重要です。疑問点は必ず保険者や専門家に相談しましょう。

退職給付金の受給手続きを行うためには、正確な手続きと専門的な知識が必要です。
しかし、手続きの複雑さや専門知識の不足でお困りの方も多いのではないでしょうか?「退職のミカタ」なら、業界最安レベルの価格で安心してご利用いただけます。「退職のミカタ」のコンテンツを利用することで、退職前から退職後まで、いつ・どこで・何をすればいいのかを、確認しながら進めていくことができます。退職給付金についてお困りの方は、ぜひ「退職のミカタ」のご利用をご検討ください!

退職のミカタ
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

目次